子宮頸がんワクチンは効果に優れた非常に素晴らしいワクチンです。
子宮頸がんはほとんどが子宮頸部へのウイルスの感染により起こるため、ワクチンにより予防が可能です。
子宮頸がんワクチンは、世界的には、急激に普及しており、現在のワクチンと、子宮がん検診の併用により、将来的には子宮頸がんの撲滅が期待されています。
ところが、日本では2013年の定期予防接種開始後から、持続的な全身の痛みや疲労などの副反応とみられる症状が報告されて、ワクチンとの因果関係が証明されないうちに、接種の推奨が中止されました。
本記事では、子宮頸がんの原因、ワクチンの効果と、ワクチンによる副反応が本当にあるのかどうかについて解説します。
目次
子宮頸がんの予防の切り札ともいえる子宮頸がんワクチンの効果と、全身のしびれや痛みといった副反応が本当にワクチンによるものかについて以下に解説します
子宮頸癌とは?
実はパピローマウイルスによる感染症だった
子宮頸がんの原因はウイルス感染症だった!
子宮がんには、子宮頸がんと子宮体がんがあります。
(日本産婦人科学会ホームページより)
子宮体がんは、比較的高齢な方に多い普通のがんですが、子宮頸がんは40歳前後にピークがあります。
(大鵬薬品工業より)
子宮頸がんは、そのほとんど(95%以上)にヒトパピローマウイルス(HPV:Human Papillomavirus)というウイルスの感染が関連しています。HPVは、性交渉で感染することが知られているウイルスです。
しかし、性行為をしたことがある女性は、実はほぼ全員がパピローマウイルスに感染しています。
パピローマウイルス(HPV)は100種類以上あり、そのうち子宮頸がんを起こすのはHPV16やHPV18などのごく一部(高リスクHPVと言われます)です。また、これらの高リスクHPVに感染していても、子宮頸がんを発症するのはごく一部です。
子宮頸がんの原因はパピローマウイルスです
子宮頸がんには前がん病変があり、子宮がん検診でがんになる前に発見が可能です
さて、高リスクHPVに感染している女性のうち、一部の人は、子宮がん検診で引っかかります。
以前は子宮がん検診は細胞診と言われる、子宮頸部から「木のヘラ」や綿棒で細胞を採取して行われていましたが、現在では、細胞診に加えてHPV検査も併用されています。
子宮頸がんは前がん病変として、異形成(いけいせい)という状態が知られています。
子宮頸がんになるまえの、この異形成という状態が非常に長く(5-10年)続くのが子宮頸がんの特徴です。そして、この異形成の状態であれば、自然に正常にもどるか、仮に進んでも確実に治療可能です。
子宮がん検診は、この「異形成」の状態を見つけるのが主な目的です。
もし子宮がん検診で引っかかった場合には、かならず指定のクリニックを受診して、精密検査を受けるようにしましょう。
子宮がん検診の目的は、前がん病変のうちに病気をみつけること
子宮頸がんは早期であれば100%治癒します
上で、子宮がん検診の目的は、異形成の状態を見つけることと書きましたが、上皮内がんといわれる状態までで見つかれば、100%治癒可能です。
つまり、子宮頸がんを撲滅する方法の一つは、子宮がん検診で上皮内がんまでの状態で見つけることです。
子宮頸がんおよびその早期病変は、40歳前の妊娠可能年齢の女性に多く見られます。そのため、治療後に妊娠可能かどうかは非常に重要です。
上皮内がんまでであれば、治療後も妊娠可能ですし、妊娠中に見つかった場合でも、分娩まで治療を待つことが可能です。
子宮頸がんの前がん病変は、上皮内がんまでに見つかれば、100%治ります。
そう、現在の子宮がん検診は、受検者が少ないという大きな問題があります。
なんだ、40%も受診してるじゃないかと思われるかもしれませんが、実はこの受診者の多くはリピーター(しかも高齢者)で、本来受診してほしい若年者の新規受診者は10%もいません。
つまり受診者数が頭打ちになっている子宮がん検診だけでは、これ以上の子宮がんの予防は難しい状況になっていました。
そこに、子宮がん撲滅の切り札として、HPVワクチンが登場しました。
HPVワクチンとは? 子宮頸がん撲滅の特効薬
子宮頸がんを防ぐために必要なこと
HPVは70種類以上の型があると言われていますが、子宮頸がんの原因はtype16や18などの一部の型だけです。子宮頸がんワクチンは、これらの子宮頸がんの原因になる型のHPVに対する抗体を作ることで、HPVの感染を防ぎます。
(新潟大学医学部HPより)
HPVに未感染の状態で十分な量を接種すれば、少なくとも90%以上、おそらくほぼ完全に子宮頸がんを予防することが可能と言われています。
一方で、このワクチンは、すでに感染しているHPVに対しては効果がありません。
子宮頸がんワクチンの予防効果を最も発揮するために重要なのは、性交渉をする前に接種すること、つまり年齢が大事です。
現在、厚生労働省が推奨している接種開始年齢は10-14歳程度となっています。理想は、この年齢までにすべての女子が接種を受けることですが、現状の日本では、接種率がほぼ0%となっています。
子宮頸がんワクチンによる副反応?真実?誤解?
子宮頸がんワクチンは、2009年に販売開始され、その後2013年から、定期予防接種となり、小学6年生から高校1年生までの女子は医療機関で無料ないし定額で接種を受けることができます。
ところが、定期予防接種が開始されてからしばらくして、因果関係は不明ながら、持続的な痛みなどを訴える副反応(ワクチンの場合は一般に副作用ではなく、副反応といいます)が一斉にマスコミ報告され、厚生労働省が積極的なワクチンの接種を中止しました。
(産経ビジネスより)
ワクチン接種の積極的勧奨を始めた当初は接種率は70%を超えていましたが、現在は0.1%以下で、そのままになっています。
その原因は、以下のように、HPVワクチンと関係があるかどうかの検証が十分になされていない段階で、マスコミが大々的に「ワクチンの副反応」として報道したことにあります。
(看護rooより)
子宮頸がんワクチンの副反応と言われる症状は
- 疲労
- 筋痛
- 頭痛
- 関節症状
などが挙げられています。症状の種類や程度は多彩で、比較的軽い症状から、日常生活を送られないくらい重い症状までみられます。
そして、最大の問題点は、こういった症状が、本当に子宮頸がんワクチンが原因かわからないという点にあります。
実は、思春期の女性には、こういった症状がごく一部で見られることが知られており、ワクチンと関係ないのに、いかにもワクチンのせいで起こったと報道されたことが問題なのです。
現在、世界的には、多数症例による臨床研究で、子宮頸がんワクチンとこれらの副反応との関係は完全に否定されています。子宮頸がんワクチンにはその他一般のワクチン以上の副反応はないことが証明されているんです。
子宮頸がんワクチンには、報道されているような副反応はないことが証明されています
子宮頸がんワクチンの現状と今後
世界的に、子宮頸がんワクチンは大変な勢いで普及しており、実際に前がん病変を含めて子宮頸がんが減ってきていることから、将来的に子宮頸がんによる死亡はなくなるだろうと予想されています。
(朝日新聞デジタルより)
一方で、日本では、接種を受けた世代と受けていない世代があることがわかっています。
(看護rooより)
上図の2000年以前の世代(公費接種が始まった1995年~2000年)と、2001年以降の世代で、接種率に大きな差があります。この接種率の差によって、将来の子宮頸がんのリスクに大きな差が出るだろうと予想されています。
日本の女性の場合、生涯で子宮頸がんになる確率は10万人当たり1322人。76人に1人が一生のうちで子宮頸がんになるリスクがあります。
さらに、子宮頸がんで死亡するリスクは10万人当たり321人。312人に1人は子宮頸がんで死亡すると考えられています。
ワクチンを接種しておけば、この子宮頸がんで死亡する女性を限りなくゼロに近づけることが可能です。
さすがにまずいと思ったのか、昨年、日本産婦人科学会から「HPVワクチンをめぐる議論に関する声明」がだされ、ワクチンの積極的な接種が勧奨されました。
HPVワクチンをめぐる議論に関する声明
平成30年6月23日
公益社団法人 日本産科婦人科学会
HPVワクチンの接種勧奨が中止され5年間が経過しました。この間、国内外において、数多くの研究がなされ、ワクチンの有効性と安全性を示す科学的なエビデンスが、数多く示されてきました。また、因果関係の有無にかかわらず、ワクチン接種後の多様な症状を示す方々への診療体制も整えられました。私たちは、こうしている間にも、子宮頸がんの原因たるHPVに若い女性が感染し、将来大きな不幸に見舞われることに大変な危機感を覚えています。一刻も早いHPVワクチンの接種勧奨再開を求めるとともに、HPVワクチンをめぐる議論は科学的な根拠に基づく視点でのみ行われるよう強く求めます。
(日本産婦人科学会ホームページより一部改変)
今後の日本を担う女子が子宮頸がんで苦しむことのないように、今後は積極的に接種が行われることを期待しています。
子宮頸がんワクチンについてまとめ
- 子宮頸がんの原因はほぼパピローマウイルス(HPV)です
- 子宮頸がんワクチンはHPV感染を防ぐことにより、非常に高い予防効果が期待できます
- 子宮頸がんワクチンと子宮がん検診を効果的に行うことにより、子宮頸がんの撲滅が可能と考えられています
- ワクチンによる副反応は誤った報道による誤解です
- ワクチン接種の勧奨を早急に行う必要があります。現状のままでは、日本は世界で数少ない子宮頸がんを克服できない国になる可能性があります
子宮頸がんは予防できる病気です。婦人科専門医として、現在15歳未満の女のお子様をお持ちの方には、是非子宮頸がんワクチンを接種させることをおすすめします。
本記事が、子宮頸がんワクチンを受けるかどうか迷っている方の参考になりましたらうれしいです^^。ご質問等ありましたらお気軽にお問い合わせからどうぞ!
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