ダウン症をはじめとした胎児染色体異常。先天異常として比較的よく知られていますが、現在妊娠中の方、これから妊娠したい方にとっては、検査ができるのであればしておきたいと考えている方が多いのではないでしょうか?
従来、胎児の染色体を検査する方法としては、羊水検査といわれる、お腹に針を刺して羊水を採取する方法が主に行われていました。羊水検査は、検査可能な施設が限られており、また確率は低いものの、流産などの合併症があることから、誰でもできる検査ではありませんでした。
ところが最近、母体の血液を採取するだけでかなりの精度で胎児の染色体異常を検出できる方法が開発されました。新型出生前診断(NIPT)と呼ばれ、確定診断ではないものの、陽性適中率が非常に高く、新たな出生前診断法として注目されています。
そこで、本記事では、ダウン症を含めた胎児染色体検査について、NIPTを中心として、費用と効果、その他の検査との比較について、専門医が詳しく解説します。
目次
最近話題のNIPT(血液での胎児の染色体異常判定)を含めた、出生前診断の方法とそれぞれのメリット・デメリットについて専門医が解説します
トリソミー21(ダウン症候群)とは?
人間の染色体は全部で46本(常染色体22対、性染色体1対)あります。染色体というのは、DNAの塊のようなもので、60兆個といわれる人間の細胞1個1個の核に46本ずつ入っています。
(https://snjpn.net/archives/104278より一部改変)
ダウン症は、上図のように、21番目の染色体が普通より1本多いためにおこる症状一般(症候群)をいいます。ダウン症候群の症状には以下のようなものがあります。
ダウン症候群の症状
- ダウン様顔貌(平坦な顔貌、厚い唇、大きな舌、つり上がった眼)
- 筋力や言語発達の遅れ、低身長
- 心臓の病気(心内膜欠損症など)
- 悪性腫瘍(白血病など)
- 消化器疾患(十二指腸閉鎖、鎖肛など)
などが知られています。
ダウン症候群の原因となる染色体の過剰は、ほぼ100%母親由来の染色体(卵子由来)と言われています。この卵子染色体の異常は、母親の年齢が上がるにつれて(卵子が老化するにつれて)、頻度があがります。
一般にダウン症の頻度は全妊娠の1/600程度とされていますが、母親の年齢が20歳では1/2000程度、一方母親の年齢が40歳の場合は1/100程度になるとされています。
妊娠週数と妊娠中絶可能週数についての基礎知識
ここで、意外に知られていない、流産、早産、死産など妊娠の週数に関する用語を整理しておきましょう。
妊娠21週6日までに妊娠が終了(中絶)した場合を流産、妊娠22週0日から妊娠36週6日までに出産した場合を早産といいます(妊娠37週~41週6日は正期産、妊娠42週0日移行は過期産といいます)。
妊娠12週0日以降に、胎児が死んだ状態で出産することを死産といい、法律上、埋葬が必要になります(一般に「中絶」といわれる処置が行われるのはこれより前のことがほとんどです)。
胎児を人工的に中絶することが可能なのは、妊娠初期~妊娠21週6日までとなります。妊娠22週0日以降は法律上、一人の人間として扱われますので、いかなる理由があろうとも、人工的に中絶することにより死産ないし出産をすることはできません。
そのため、仮に出生前診断でダウン症であることが判明して、中絶をする場合には、遅くとも妊娠21週6日までに処置を終わらせる必要があります。つまり、出生前診断は、その前に行う必要があるということです。
なお、妊娠中絶について、個人の希望で自由にできると思っている方がいますが、法律上の解釈は以下のようになります。
現在の日本において、中絶が可能なのは「母体保護法」という法律で決められています。
母体保護法 第三章 母性保護
第十四条 都道府県の区域を単位として設立された公益社団法人たる医師会の指
定する医師(以下「指定医師」という。)は、次の各号の一に該当する者に対して、本人及び配偶者の同意を得て、人工妊娠中絶を行うことができる。
一 妊娠の継続または分娩が身体的または経済的理由により母体の健康を著し
く害するおそれのあるもの
二 暴行若しくは脅迫によってまたは抵抗若しくは拒絶することができない間
に姦淫されて妊娠したもの
2 前項の同意は,配偶者が知れないとき若しくはその意志を表示することがで
きないとき又は妊娠後に配偶者がなくなったときには本人の意思だけで足りる。
簡単に言うと
人工妊娠中絶は
- お金がないか、病気のため妊娠が続けられない場合
- レイプのため妊娠した場合
のみ可能とされています。
本来は希望したから中絶できるというわけではないんですね。でも、産婦人科クリニックでは、実際には本人たちの希望(正確には、上記の「経済的理由」が理由になることが多いです)で、なんの制限もなく中絶手術が行われています。
この点について賛否を言うつもりはありませんが、「言ってることとやってることが違うんじゃね」という思いは昔からあります。
妊娠中に胎児染色体を検査する方法
ダウン症候群は、妊婦健診時の超音波検査では異常がないことが多いのですが、時に以下のような異常所見が出る場合があります。
超音波検査でダウン症を疑う所見
- 首の後ろのむくみ(Nuchal translucency:NTないしヒグローマといわれます)
- 胎児大腿骨の短縮
- 胎児発育不全
- 胎児心臓の異常
などが知られています。ただし、正常でも同様の所見がでることがあり、区別が難しいことも多いです。また、どんなに超音波検査で異常があったとしても、染色体異常と確定はできません。
以下では、超音波検査以外の、それぞれの出生前診断の方法について説明します。
把握しておきたい大事なポイントとして、
- 検査方法
- どんな異常わかるのか
- 確定可能な検査かどうか
- 検査料金がどれくらいなのか
- 検査をする妊娠週数
- 検査結果判明までの日数
- どんな副作用や合併症があるのか
について説明します。なお、いずれの検査も保険は適用されませんので、大学等で研究目的に検査をする場合を除き、基本的に自己負担となります。
羊水検査
- お腹に針を刺して(経腹的)直接羊水を採取をします。局所麻酔を使用して、細い針を使って羊水を抜きます。
- 染色体の数の異常(ダウン症や18トリソミーなど)、転座等の構造異常
- 確定可能
- 数万円~20万円
- 妊娠14~16週ころ
- 羊水を培養する時間が必要なため、3~4週間程度
- 流産の可能性が1/300程度(羊水流出は1/100程度)
胎児染色体の検査として昔からある検査が羊水検査です。羊水中に浮遊している胎児の細胞を培養して、直接染色体検査をするため、確定診断が可能です。
ただし、直接針をさすことから、一定の割合で流産などの合併症が生じます。そのため、検査は一定の設備が整った施設でする必要があり、検査の適応(検査を受けられる人)も、ある程度以上リスクのある人に限られています。
絨毛検査、臍帯血検査
- 経腟的または経腹的に針を刺して直接胎盤の絨毛を採取(絨毛検査)または経腹的に赤ちゃんのへそのおの血液を採取(臍帯血検査)をします。
- 染色体の数の異常(ダウン症や18トリソミーなど)
- 確定可能
- 10万円~20万円
- 妊娠11~14週ころ(絨毛検査)、16週以降(臍帯血検査)
- 2~3週間程度
- 流産の可能性が1/100程度(羊水検査より高率)
絨毛検査や臍帯血検査は羊水検査よりさらに侵襲が高いため、合併症の頻度が高くなります。また、臍帯血検査は、胎児の血管から採取するため非常に高度の技術が必要で、うまく取れないリスクもあります。そのため、現在では行われることがほとんどないようです。
母体血清マーカー検査
- お母さんの血液検査です
- 染色体の数の異常(ダウン症や18トリソミーなど)、神経管開存症、無脳症など
- 非常に曖昧(結果が確率で出る。陰性だからといって異常は否定できない)
- 2万円前後
- 妊娠15週ころ
- 2~3週間程度
- なし
トリプルマーカーテストやクワトロテストなどとも言われます。母体血液中のAFPやhCGと言われる血液マーカーの値から、過去のデータと比較して、胎児の異常を推定します。
値段が安く、合併症はありません。
ただし、結果が確率でしかでないため(例えば「ダウン症の確率が1/30」など)、検査結果の解釈が難しく、むしろ混乱する可能性があります。そのため、この検査は正直言っておすすめできません(というか、むしろやらないほうがいいです)
新たな出生前診断法 NIPT
- お母さんの血液検査です
- ダウン症、18トリソミー、13トリソミー
- 推定診断(ただし、かなり正確)
- 15~20万円
- 妊娠10週以降
- 1~2週間程度
- なし
NIPTは、妊婦さんから、血液を採取して、その中に浮遊している「胎児の」DNA断片から赤ちゃんの染色体異常を推定します。
胎児の異常なDNAがあれば陽性と判定されることから、「陽性」であった場合には、ほぼ確定といっていいと思います(陽性的中率)。
一方で、「陰性」の場合には、「胎児DNAに異常がない」場合と、「胎児DNAがうまく採取されていない」可能性があるため、陰性なのに、胎児に染色体異常がある可能性は否定できません(偽陰性といいます)。
建前上、推定診断となっていますが、実際にはほぼ確定に近い診断が可能です。
現在、この検査を受けられる条件は(日本産婦人科学会)
- 高齢妊娠(分娩予定日に35歳以上である)
- 染色体異常を有する子を妊娠あるいは分娩したことがある
- 超音波検査や血清マーカー検査などで、染色体異常が疑われる
となっています。
NIPTは、確定診断ではありません。NIPTの結果が「陽性」あるいは「判定保留」の場合には、羊水検査で異常の有無を確定させる必要があります。
結局どの検査がうけられるの?
NIPTは、結果の解釈が難しい場合があることと、仮に陽性ないし判定保留が出た場合のフォローアップが必要であることから、可能であれば専門機関での受診をお勧めします。
しかしながら、現状の条件では、35歳以下で希望する方のほとんどは受けられないということになりますね
実際には、妊娠している女性の多くは35歳未満ですし、年齢に関わりなく、検査を受けたいというニーズは間違いなくあるわけです。
そのニーズを受けて、専門機関ではなくても、NIPTを受けられるところが出てきています。(NIPTで検索するとたくさん出てきます)
【出生前診断を受ける前に知っておいてもらいたいこと】
胎児出生前診断は、人間一人の運命を左右する非常に大きな決断です。決して安易に受けて、安易に決断することがあってはならないと考えています。
受ける前から、十分に夫婦で相談をして、方針を決めてから受ける必要があると管理人は考えています。
遺伝カウンセリングの場では、十分な時間をとって、専門医による説明を受けた上での、相談が可能です。不安等ある場合には、出生前診断を受ける前に、専門機関の遺伝カウンセリングを受けることをおすすめします。
現状、産婦人科学会では、NIPTの適応について厳しく制限していますが、個人的には、希望すれば受けられるような体制があってもいいのではないかと考えています。
妊娠中に可能なダウン症の出生前診断についてのまとめ
- 出生前診断には、確定的検査と、非確定的検査があります
- 確定的検査には、羊水検査などがあります。
- NIPTは非確定的検査となっていますが、検査精度はほぼ正確です。
- NIPT検査の適応にならない方の場合でも、一般のクリニックで検査をすることは可能です。
- 検査前後のフォローアップについてはクリニックにより異なる可能性がありますので、慎重に検討が必要です。
胎児出生前診断は、人間一人の運命を左右する非常に大きな決断です。十分に夫婦で相談をして、方針を決めてから受ける必要があると管理人は考えています。
本記事が、出生前診断を行うかどうか迷っている方の参考になりましたらうれしいです^^。出生前診断について、ご質問等ありましたらお気軽にお問い合わせからどうぞ!
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