赤ちゃんができると、五体満足無事に生まれますように・・・と思うのは万国人類共通の願いです。まして、自分の体調不良で薬を飲んで、万が一赤ちゃんに何かあったら、と心配になるのは当然ですね。
よく誤解されるのは、「妊娠中に薬を飲んだら、赤ちゃんに奇形がおきるから、飲んではいけない」というものです。産婦人科以外の医師ですら、薬を出したがりません。
でも、これは、全くの誤解です。
実は現代では、妊娠中の薬はごく一部を除き、奇形を起こす心配はありません。さらに、妊娠中にも関わらず、薬を飲み続けたほうがいい方すらいます。
それでも、妊娠中は薬を飲むのは心配だと思いますし、飲まなくては行けない場合でも、赤ちゃんへの影響は少しでも減らしたいと思いますよね?
以下では、一般的に知られている薬の赤ちゃんへの影響と、妊娠中の薬の内服に関する考え方、飲まないほうがいい薬や時期について、専門医がわかりやすく解説します。
目次
妊娠中の薬は大丈夫なのか、基本的な考え方と、飲まないほうがいい薬や時期などについて、専門医が解説します
【サリドマイド事件】
サリドマイド事件は、戦後の経済成長期であった1960年前後に、サリドマイドという医薬品の副作用により、世界で約1万人の胎児が被害を受けた薬害事件である。この薬には、妊娠初期に服用すると胎児の発達を阻害する副作用があった。被害児の多くは命を奪われ(死産等)、あるいは四肢、聴覚、内臓などに障害を負って生まれた。わが国では、世界で3番目に多い約千人(推定)が被害に遭い、生存した309人が認定されている。
(Wikipediaより)
胎児奇形を起こす薬として有名なサリドマイドは、当時「つわり」の薬として処方されました(つわりの時期の内服であったことも被害を拡大させた原因です)。
サリドマイドを妊娠初期に内服してから生まれてきた赤ちゃんには手足が短かったり、内臓に障害のある赤ちゃんが多発しました(管理人は子供の頃、「典子は今」っていう映画でこの被害を知りました)。
悲劇的な事件でしたが、この事件によって、妊娠中の薬により奇形が起こることが広く知れ渡りました。一方で、その後ほぼすべての薬について、胎児への影響や催奇形性が検討されるようになりました。
この事件が妊娠中の薬と安全性について与えた影響は計り知れません。
妊娠中の薬の内服について基本的な考え方
もし今、薬のせいで奇形のある赤ちゃんが生まれたりしたら、大々的に報道されると思いますが、聞いたことありませんよね?
広い意味での胎児奇形は、100人の出産に対して2-3人程度起こるとされています。現代では、このうち、薬が原因と考えられる奇形はほぼないと考えられています。
特に、市販されていて誰でも手に入る薬については、動物実験などで、赤ちゃんの奇形についてかなり厳密にチェックされており、妊娠期間を通してまず心配ありません。
一方で、妊娠中に「絶対」安全といえる薬はありません(というより、医者も製薬会社も、妊娠中かどうかにかかわらず、薬が「絶対安全」だとは口が裂けても言いません)。ただし、実際にはほとんどは安全です。
ですので、現在の産婦人科における、妊娠中の薬の投与は、「有益性が危険性を上回る場合のみ投与する」という考え方です。この考え方であれば、一部の薬を除いてほとんどは安全ですので、結局「必要な薬は使って良い」ということになります。
更に言うと、妊娠前から内服していた薬で、その薬がないと体調に変化を来す可能性がある薬(甲状腺疾患の薬など)は、妊娠を期にやめてしまうと逆に赤ちゃんに悪影響が出る可能性があるため、薬をやめてはいけない場合があります(個々の症例により異なりますので、個別に産婦人科医に相談が必要です)。
妊娠中であっても、必要な薬は使いましょう!
妊娠中の薬の赤ちゃんへの影響(心配)を少しでも減らすためのポイント
妊娠中の薬の赤ちゃんへの影響(心配)を少しでも減らすためのポイントとして
- 妊娠初期を避ける
- 必要最小限にする
- 多剤服用をさける
- 服用する期間をなるべく短くする
- 可能なら外用薬にする
- 一部の禁忌薬について知っておく
などがあります。以下で解説します。
①妊娠初期を避ける 赤ちゃんの奇形を避ける上で、最も重要なのは内服の時期!
【妊娠4週~12週】最も薬に感受性の高い時期
何度も繰り返しますが、妊娠中のいかなる時期でも、催奇形性(奇形を起こす可能性)が証明されている薬は殆どありません。そして、起こす可能性があると言われている薬も、仮に投与されても実際に起こるわけではありません。
一方で、赤ちゃん側から見ると、奇形が起こりうる時期は決まっています。それは、妊娠の器官形成期と呼ばれる、妊娠4週~12週(月経が遅れて妊娠が判明するのが4週です)です。
(山本産婦人科HPより一部改変)
この妊娠4~12週(上図の赤い部分)以外の時期には、仮に奇形を起こしうる薬や薬品を投与されても、理屈上、奇形は起こりえません。
ですので、可能であれば、この時期は薬の内服を避けることをお勧めします。ただし、仮に飲んだとしても、奇形を起こす可能性は殆どありませんので心配する必要はありません^^。
妊娠4週~12週は器官形成期なので、なるべく薬の服用は避けましょう
【受精~妊娠4週まで】薬が影響すると流産する可能性がある時期
上記の器官形成期より前に、仮に赤ちゃんに薬の悪影響があった場合にはどうなるのでしょうか?
実は、器官形成期より前の時期というのは、妊娠が判明する前の時期です。そのため、産婦人科外来では、妊娠に気づかずに「薬を飲んでしまった」とか、「胸のレントゲンをとってしまった」といった心配がよく相談されます。
結論から言えば、この時期の薬が赤ちゃんに悪影響を与えると、奇形等を引き起こすことはなく流産してしまうと言われています。
逆に言うと、流産せずに、発育していれば、この時期の薬による影響は否定されるということになります。
妊娠に気づかずに、市販の薬を内服していても心配はありませんのでご安心ください^^。
妊娠に気づかずに薬を内服していても、奇形が起こることはありません
【妊娠13週以降】奇形の心配はないが、一部の薬で悪影響が出る可能性がある
妊娠13週以降は、どんな薬を内服しても、理屈上、四肢欠損などの単純な奇形は起こりえません。
一方で、胎児の臓器がどんどん成熟してくる時期なので、臓器の成熟や、発達に対する障害(胎児毒性)が生じる薬が一部であり、すでにどの薬にどういった毒性があるか、良く知られています。例えば以下のような薬です。
【妊娠中~後期に胎児毒性を生じる可能性がある薬】
- アミノグリコシド系抗結核薬・・・聴力障害
- アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬・・・腎障害
- テトラサイクリン系抗菌薬・・・歯の着色
- 非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)・・・心機能異常(動脈管収縮)
上に上げた薬のうち、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)は、市販されている薬の中でほぼ唯一の妊娠中に飲んではいけない薬種です。知らないと内服する可能性がありますので、下記⑥で詳しく説明します。
上に上げた薬のうち、NSAIDs以外の薬は妊婦に投薬される可能性はほぼありませんし、産婦人科医は皆知っているのでご安心ください。
妊娠中~後期には、避けたほうがいい薬があります!
②妊娠中の薬の服用は必要最小限にする ③多剤併用を避ける ④内服期間を短くする
産婦人科医からすると、妊婦さんに投薬するときは、なるべく①少なめの種類の薬で、②なるべく短めに、③必要最小限の投与に注意を払います。
同様に、自分の判断で市販薬を購入する場合にも、同様になるべく最小限になるように注意してみてください。
※必要最小限で症状が良くならない場合には、むしろ赤ちゃんに悪影響が出る可能性がありますので、産婦人科医の指示に従って、しっかりと治療するようにしましょう。
妊娠中の内服はなるべく単剤で、短期間にするのが大事!
⑤可能なら外用薬にする
薬は、口から飲む「内用薬」、注射器で体内に注入する「注射薬」、かゆみ止めの塗り薬や、目薬、点鼻薬、喘息の吸入薬など皮膚や粘膜に直接使用する「外用薬」に分かれます。
一般に、注射薬と内服薬は血中濃度が高くなり、血流に乗って全身に回るため、体への影響も大きくなります。一方で、局所だけに作用する外用薬については、血中濃度も低く抑えられます。
特に、アレルギーの薬や、喘息の薬など、ある程度外用と内服が選べる薬の場合には、なるべく外用にしたほうが安心です。
※症状が良くならない場合には、むしろ赤ちゃんに悪影響が出る可能性がありますので、産婦人科医の指示に従って、しっかりと治療するようにしましょう。
外用薬が選べる場合には、なるべく外用で対処する方が安心
⑥一部の妊娠中の禁忌薬について知っておく
上で、市販薬は大丈夫と書きましたが、実は頭痛薬(バファリンなど)や湿布などで一般に成分として含まれている非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDS)だけは妊娠後期の赤ちゃんに悪影響(奇形ではありません)が出る可能性があるので使えません。
この場合には、奇形が起こることはありませんが、心臓の血管の一部(動脈管といいます)が胎内にいる間に閉まってしまい、具合が悪くなってしまう可能性が否定できないため、基本的には禁忌となっています。
【NSAIDsを含む市販薬の例】
- 腰痛などの湿布薬
- 頭痛、生理痛治療薬(バファリンなど)
- 鎮痛用座薬(ボルタレン座薬など)
- 鎮痛用の外用薬(バンテリンなど)
湿布薬や頭痛薬などは市販で簡単に手に入りますし、外用薬もNSAIDsで有ることを意識せずに使ってしまう可能性がありますが、ここでは外用薬も含め、使用しないほうがいいと思います。
バファリンや湿布は特に妊娠後半期には不用意に使用しないこと!
妊娠中の薬による催奇形性、安全性について まとめ
- 妊娠中でも、ほとんどの薬は安全に使用可能ですので必要であれば使用しましょう
- 胎児の器官形成期(4週~12週)はなるべく薬の服用は避けましょう
- なるべく単剤で、試用期間を短くするのが大事です
- 外用薬が選べるときはなるべく外用薬にしましょう
- 非ステロイド系抗炎症薬は妊娠中~後期には禁忌です
いかがでしょうか?妊娠中に積極的に薬を飲む必要もありませんが、恐れすぎる必要もないということがわかっていただけたでしょうか?
本記事が、妊娠中に薬の内服をしてもよいかどうか、心配している方の参考になれば幸いです^^。ご質問等ありましたらお気軽にお問い合わせからどうぞ!
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