妊娠中は周囲から「運動はやめたほうがいい」とか「旅行は危ないよ」とかなんの根拠もない適当な意見で様々な活動が制限されやすい時期です。
でも、本当に妊娠中の運動はいけないのでしょうか?
結論から言うと、適度で適切な運動は、赤ちゃんや妊婦さんにいい影響があります。ただし、どんな運動でもいいわけではなく、運動の種類や強度は選ぶ必要があります。
本記事では、妊娠中の運動について、これまでに知られているエビデンス(証拠)に基づいて専門医が解説します。
目次
妊娠中の運動(スポーツ)はどの時期、どの程度まで大丈夫なのか、妊娠中の赤ちゃんやお母さんにどういった影響があるのか、について専門医が解説します
妊娠すると、赤ちゃんがお腹の中にいるために、体には以下のような変化が起こります
- 体重が増えます
- お腹が出てくることから重心が前に移動します
- 全身の血液が増えて、心拍出量が増えます
- 基礎代謝が増加します
妊娠していない時期と比較して、このような変化がかなり劇的に(たとえば、血液の量は最大で5割増くらいになります)起こります。
これらの変化は、運動をするには不向きな変化と言えます。そのため妊娠中のスポーツについては、慎重に考慮される必要があります。
現在では、妊娠中に好ましい運動、好ましくない運動あるいは危険な運動が区別されています。また、運動をすべきではない状態についてもわかっています。
以下、解説します。
妊娠中に好ましい運動とは?
当然ですが、妊娠中の運動はお腹の赤ちゃんに対して危険が及ばない(打撃や転倒のリスクがない)ことが前提となります。
そのうえで、負荷の少ない有酸素運動として
- エアロビクス
- 水泳
- ウォーキング
- ヨガ・ピラティス
などが知られています。
妊娠中に週2~3回程度の有酸素運動を行っている妊婦では、早産率を上昇させずに、身体機能を増進させることが可能であるとされています。
また、低出生体重児(出生時体重2,500g以下)のリスクを増加させることなく、巨大児(出生時体重4,000g以上)出生のリスクを軽減することが知られています。
以下、妊娠中に好ましいとされる代表的な有酸素運動について解説します。
妊娠中に好ましいとされる、全身の筋肉を使い、酸素を十分に取り入れる有酸素運動
エアロビクス
妊娠中の運動の代表例はエアロビクスではないでしょうか。おそらくパンフレット等で一度は目にしたことがあると思います。
エアロビクスは、比較的運動負荷があるにも関わらず、接触や外傷の危険が低く、妊娠中も安全に行うことができます。
多くのクリニックでは、院内にインストラクターを招いたり、エアロビクススタジオで妊婦向けの教室を開いたりしています。
妊娠中のエアロビクスについては臨床研究も多数なされており、妊娠中の痛みの発生の軽減や、赤ちゃんの成長を促進する効果が証明されています。
水泳 スイミング
スイミングも妊娠中に盛んに取り入れられている代表的なスポーツですね。
水泳は安全であるだけでなく、水の浮力や抵抗を利用することで負荷の調整ができて、理想的な全身運動が可能です。
水泳については、胎児異常を増加させることなく、早産率や先天異常のリスクを軽減させる効果があることが臨床研究で証明されています。
これらの運動については、あくまで妊娠経過に異常がないことが前提となります。運動を開始する前に、必ず医学的・産科的に問題がないことを確認してください。
妊娠中に好ましくない、あるいは危険な運動とは?
妊娠中には好ましくない、あるいは危険なため、原則行ってはいけないスポーツもあります。代表的なものについて以下で解説します。
妊娠中に好ましくない運動 接触や外傷の危険が高いもの
妊娠中に好ましくない運動としては、特に赤ちゃんのいるおなかにたいして接触や外傷の危険があるものがあります。
非妊婦に人気があるスポーツで、妊娠中には好ましくない運動の代表的なものとして
- ホッケー
- バスケットボール
- サッカー
- ボクシング
- レスリング
などが挙げられます。
これらのスポーツを妊娠中にも続ける方は少ないとは思いますが、もし妊娠中にも関わらず行っているよ、という方はできればやめることをお勧めします。
妊娠中に好ましくない運動 転びやすく外傷を受けやすいもの
危険であるため、妊娠中は原則として禁止(規約等で妊婦はできない)されているスポーツもあります。
妊娠中は禁止されている代表的なものとして
- スキューバダイビング
- ハンググライダー
- 激しいラケットスポーツ
- 体操
- スキー
- 乗馬
- 重量挙げ
- スケート
などが挙げられます。これらについては、通常は規約等で妊婦は行えないと思いますが、もし行っていたり、海外旅行等で予約をしている場合には、中止をすべきです。
長時間お腹を圧迫したり、不動の体位を保つような姿勢、落下や外傷のリスクがある運動や、競技性の強いスポーツは、妊娠中はすすめられません。
妊娠中に運動を行ってはいけない場合
妊娠中の運動は、原則として妊娠初期(~12週)や妊娠後期(おおよそ28週以降)をさけて、いわゆる安定期(妊娠12週~28週くらい)に行うのが望ましいとされています。
妊娠初期であれば、流産のリスクがありますし、妊娠後期であれば早産や胎盤早期剥離などの合併症のリスクがあります。
また、安定期であっても、妊娠中に以下のような状態になった場合には運動は禁忌(してはいけない)です。
妊娠中に運動が禁忌である場合
- 重篤な心疾患・呼吸器疾患
- 切迫流産、切迫早産
- 子宮頸管無力症
- 子宮頸管長短縮
- 前期破水
- 性器出血
- 前置胎盤
- 低置胎盤
- 妊娠高血圧症候群
などです。
なお、妊娠糖尿病などの耐糖能異常の場合は、通常は運動は禁忌ではなく、むしろ運動をしたほうが良い場合もありますので、主治医に相談してみることをおすすめします。
運動をするのに問題がない状態であっても、妊娠中の運動は、立ちくらみ、頭痛、呼吸困難、腹部緊満、お腹の張り、性器出血、胎動減少、羊水流出感などのリスクがあります。万が一これらの症状があった場合には、ただちに運動を中止して、主治医に連絡し、指示を仰いてください。
妊娠中の運動(スポーツ)についてまとめ
- 妊娠中の適度な運動は、早産や合併症のリスクを軽減させる効果があります
- エアロビクスや水泳は、妊娠中も安全で、妊娠に対していい影響を与えることから、最もおすすめの運動です
- お腹を圧迫したり、落下や外傷のリスクがある運動はお勧めしません
- 合併症がある場合、運動ができないことがありますので、主治医にご相談ください
妊娠中の運動は適切なものを適度に行うことで母子ともにより健康になれます。妊娠中の適度な運動で、元気な赤ちゃんが生まれることを期待しています。
本記事が、妊娠中の運動について迷っている方の参考になりましたらうれしいです^^。ご質問等ありましたらお気軽にお問い合わせからどうぞ!
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